信じられないことに、目的地と乗る車が決まらないまま、ドライブの前日を迎えてしまった。延期しようかと悩んでいた時、Top Gearのとあるエピソードを思い出した。ジェレミーがメルセデスCLK Blackのレビューをするのに、夜明け前にロンドンを出発してウェールズに向かうというものだ。そこでジェレミーはこう視聴者に問いかけた。
「あなたは、ドライブをするために早起きをしますか。また、最後にそれをしたのはいつですか。行き先も決めず、ただ走るために。」(Series 11 Episode 2より)
私はこの言葉が胸に突き刺さった。まだ日が昇る前に、誰にも邪魔されずに、空いた道路を、車と対話するかのように走る。これこそ車の醍醐味なのではないだろうか。ジェレミーはさらにこう述べてCLK Blackを評価している。
「この頃の車は、そこまでするほど楽しいのだろうか。しかし、この車なら夜明け前に起きる価値がある。」
この美しい映像、音楽とともに車の魅力を伝えてくるエピソードにすっかり感銘を受けた私は、夜明け前に起きてBMWに乗ることに決めた。私にとってBMWは、そうする価値のある車だからだ。
しかし前日の夜、遠足前の子供の頃のように落ち着かなくなった私は、よく眠ることができなかった。目が覚めると4時半を回っていた。いや、まだ夜明けまでは時間がある。ただ、そこはTop Gearのようにはいかない。悲しいことに、BMWに乗るためには先に電車に乗らなければならない。支度は済ませてあるので、すぐに家を出て電車に乗り込む。周囲を見渡すと皆寝ているが、私は完全に目が覚めている。何度も乗ったBMWに乗るだけなのに、どうしてこんなにも興奮しているのだろうか。
いつもの場所に着くと、赤いBMWはそこで待っていた。予定を大幅に遅れて出発すると、既に空は明るくなり始めていた。
東へ向けて走っていると、日の出を前方に見ながら京葉線快速と並走を始めた。素晴らしい景色を見ながら高架線を快走する。
目指す富津岬は1年前にBMWの良さを再確認した思い出の場所でもある。
富津岬に差し掛かると、誰もいない直線道路に出た。思わず外観を眺めたくなり、路肩に止める。柔和な表情のフェイス、サイドを貫く太いライン、立体的なハッチドア、グラマラスなフェンダー。癖のあるデザインの赤いボディはいつまで見ていても飽きることはない。
祖父の乗っていたBMWをきっかけにBMWファンになった私は、長い間E36型に拘り続けてきた。しかし、もうその拘りは捨てられる。夜明け前から誰にも干渉されずに過ごす赤い1シリーズとの一時に、心惹かれてしまったのだから。