2016年6月21日火曜日

CR-Zはどんなものか?

父が若い時に2代目ホンダCR-Xに乗っていたこともあり、CR-Zはコンセプトカー時代から気になっていた車だった。しかしながら、華々しくデビューした割には人気が下降するだけで、つい先日には販売不振でフェードアウトすることが発表されてしまった。

このCR-Zと同じ動力源を持つフィットハイブリッドRSに乗った際の印象があるので、確かにあれと同じ乗り味ならわざわざ乗らなくても良いかなと思い、今まで乗ろうとしなかったのだが、実際に乗ってみないと評価する訳にはいかないということで、ついに乗る時がやってきた。ルートは新宿から甲州街道と東八道路を経由した、調布飛行場までの往復である。


エンジンはハイブリッド特有の静かな始動。静かすぎるくらいで、流れに乗って巡航する程度では殆ど音も振動もない。ただし、アイドリングが安定しなかったり、アイドリングストップ動作がぎこちないことなどについては、このCR-Zはカーシェアリングのもので、オドメーターが14万kmを超えて酷使されているため、その点を考慮する必要がありそうだ。

加速はまさにフィットRSにモーターを付けたような、少し余裕のあるトルクをもった加速を楽しめる。CVTなので完全に実用性重視で盛り上がりは一切ない。一応パドルシフトはついているが、エンジンブレーキを利用したい時にしか使わないだろうし、操作感は安物だ。

3つの走行モードが用意されており、ノーマルモードに加えて、ECONモード、スポーツモードと用意されている。まずはノーマルモードで走り始めたので、ECONモードにしてみると、アクセルペダルの踏み込みに対して加速が穏やかになった。殆どのネット上の評価では、「ECONモードはかったるくて使い物にならない」みたいに酷評されているが、私にはECONモード固定でも構わないと思ってしまった。急加速しなくなるだけでしっかり加速はするし、むしろ快適に走れていいと思うのだが...どちらかというとスイフトの加速感に近い。確かにスポーツカーとして考えるとこの制御は似合わないが、言うほどCR-Zってスポーツカーか?

次にスポーツモードにしてみると、エンジン回転数が高めを維持するようになり、ステアリングも明らかに重くなった。文で書くと何となく良さそうに感じるが、実際は違和感しか生じなかった。アクセルペダルの踏み込みに対する加速が敏感過ぎて神経質になるし、おまけにCVTなので、常にエンジン回転数が上がるとただうるさいだけ。重くなったステアリングも、油圧パワステのような本来の重さを期待したが、ドライバーがステアリングを回そうとするとモーターが無理やり回転を抑えるような重さなので、違和感しか感じられなかった。結局、ノーマルモードが一番しっくりくるので元に戻す。ネットでは常時スポーツモードにする人が多いという話を見たが、あり得ないと思った。皆危ないなぁ...


ハンドリングは、BMWほど正確な印象でもなく、MINIほど楽しさに振った印象でもない。これといって特徴は感じられず、フィットRSよりは良いかな。

ブレーキは、ペダルが殆どストロークしない上に軽い踏力ですぐ効くようになっているので、なかなか慣れずに困った。おまけに10km/h以下で走行中にもアイドリングストップしてエンジンブレーキが消えるので、余計に停止直前のコントロールが難しくなっている。ブレーキは慣れの問題だが、これが嫌な人もいるだろう。MTでクラッチを切って停止することを考えれば同じか。

シートは硬いが、調整範囲の広いステアリングと相まってドライビングポジションが取りやすく、これでこそドライブのための車だと思った。

内装は、総額300万円近い車とは思えないほどに安っぽい。安っぽいというより、そもそも安いのかもしれない。インパネのデザインが子供っぽいのは遊び心として受け入れられるが、シフト周りやドア周りがフィット並みに安っぽいのはとても残念。グレーのファブリックが用いられたシートやドアパネルは完全に汚れていて、かなり見栄えが悪い。触れたくないくらいに汚い。

メーターはデザインは凄く格好良いのだが、左右のエネルギー関係の表示は情報が多い訳でもないのに見やすくはない。タコメーターが中央にあると気分は盛り上がる。

リアウインドウが上下に分割されているのは良いが、分割されている部分がちょうど後続車を隠すようになっており、安全性に問題がある。ここは最後まで気になってしまったが、特別な車なので割り切れるとも言える。

最後に、CR-Zの中でも最も気になっていたリアシートに座ってみた。私の身長は162cmで、結果としては頭がリアガラスに押し付けられることになり、横に傾けないと背筋を伸ばせなかった。本当に緊急用のシートというのは初めてである。


2時間のドライブで、結局のところ走りにはあまり好印象を持てなかった。全てにおいて中途半端であり、何を求めても満足できる点がなかった。車としてはよくできているのだが、このボディデザインや名前から期待される水準を何もクリアしていないように思える。だから人気が出なかったのではないだろうか。

私はホンダ=タイプRではなく、ガチガチのスポーツカーは好きではないので、こういうパワーを求めないのんびりしたスポーツカーでじっくりとドライブを楽しめたら良いなと思ってCR-Zに乗ってみたが、そんな目線で見てもこの車は中途半端だ。その点で、何よりも気に入らないのが内装の安っぽさであった。

何もかも中途半端だとしても、依然としてCR-Zを欲しいなと思わせてくれるのは、この何にも似ていないダイナミックなボディデザインが、登場から年月を経た今でも古さを感じさせない格好良さを放っているからだろう。かつてのCR-Xを現代的に解釈したスタイルは、ホンダの中で1位をあげたいくらいに、本当に格好良い。自宅に帰ってきて、パソコンで赤いCR-Zの写真を見ているだけでも溜め息が出そうだ。こんなに格好良い車が自分の生活の中にあったら、どんなに楽しい人生になるだろうか。それだけに、デザイン以外が全て中途半端なことがどうしても残念でならない。

努力次第では「名車」になり得たCR-Zを販売不振で終わらせてしまうホンダは、大いに反省してほしいと切に願っている。あまりにももったいない!