2016年6月24日金曜日

走りの質を高めたデミオに乗る

今まで、走りの良い日本製コンパクトカーといえばスズキ・スイフトが代名詞として君臨してきたと考えている。ヴィッツはザ・普通だし、マーチやミラージュは安物だし、フィットは広さ最優先だし、男が黙って長距離ドライブを楽しめるコンパクトカーはスイフトしかなかった。3代目デミオもこれらの中では走りは頑張っていた方だが、やはりコンパクトカーらしく安く(安っぽいではなく)作られており、明らかにスイフトに劣っていた。

しかし、最近のマツダは欧州メーカーと同じように、B、C、Dセグメントのどれを選んでも殆ど変わらない質が得られるような車作りをしているようだ。例えば、BMWは1、3、5シリーズのいずれも基本性能に大差はなく、同じ質を維持したままで、ボディの大きさを自由に選べば良い。マツダも同様にアテンザ、アクセラと殆ど同じ質感で新型を登場させてきて、ついにデミオまでその波が到達したわけだ。



走りや内装の質感にかなり拘ったという4代目となったデミオの評判はかなり高いようで、各地で絶賛する記事を見かける。C、Dセグメントと同じデザインをBセグメントにまで持ってくれば、それは質感が高く感じられて当然である。そうわかっていても、東京モーターショーで内装を見た時は、確かにその洗練されたデザインと今までの日本製コンパクトではありえない質感の高さに驚かされてしまった。

ここまで来ても依然として気になるのは、走りに関することである。誰もがデミオの走りを絶賛しているが、そこで高く評価されている点はどれもスイフトにもあてはまるものだった。走りを重視したということに関しては、スイフトの方が明らかに先駆者であるはずではなかったのか。やはりスイフトはスズキということで軽視されていてスイフトの実力を知らないだけなのか、はたまたスイフトの存在を忘れてしまうほどにデミオの出来が良いのか。

早く乗って試してみたいのだが、わざわざレンタカーを借りてまで乗りたいとも思わない。そして今年6月になり、いつも利用しているカーシェアリングに新型デミオが配備され始めたと知り、居場所を突き止めたというわけだ。今回はデミオを味わうためだけの、1時間のドライブである。ルートは環八と青梅街道近辺を一周する。


4代目(DJ)デミオ、グレードは13S、オドメーターは1300km超である。乗る時間は夜になったため、外装をあまりじっくりと見ることはできなかった。この顔は登場当時からどちらかというと嫌いなので、とやかく言うつもりはない。

乗り込むと、早速ドアの重さが印象的だ。明らかに先代よりも重い。だから何だと言うかもしれないが、期待は高まる。内装を見てまず目につくのは、メーターの美しさである。CX-5は液晶画面に古くささを感じさせるが、デミオは新しいだけあって綺麗で洗練されており、なかなか見やすい。シートポジションを合わせると、また驚いた。アクセルペダルがオルガン式なのはともかく、ブレーキペダルとの配置が絶妙なのである。絶妙なペダル配置に加えてステアリングのテレスコピックもしっかり使えるし、ドライブが好きな人が開発したことがよくわかる。

エンジンを始動して発進すると、駐車場を出るためにステアリングを切り、クリープで走らせるだけで確信が持てた。これは良い車だ。この感覚はMINIに初めて乗った時以来である。良い車は、駐車場内を転がしているだけで何か違う印象を感じるものだ。

道路に出た。次に強く感じたのは剛性の高さで、先代とのあまりの差に呆れてしまうほどにボディの堅さがひしひしと感じられる。さらにまた驚いたことに、巡航中はエンジン音、ロードノイズ、エアコンの風の音が殆ど聞こえない。静粛性の高さは明らかにクラスを越えている。いや、ロードノイズの静かさに関しては、今まで乗った車の中でもトップクラスの遮音が施されていると思う。静かなあまり、走行中でも私の腕時計の動作音が耳に届くほどだった(静かな部屋に置いておくと動作音が聞こえる程度の腕時計)。少々粗い舗装になっても、静かさは維持されている。これだけでもかなり高級感は増すから、ここまでやるかマツダは、と思わず唸ってしまった。

ハンドリングにも努力の跡が感じられる。中立付近ではパワステが重めに設定されていて直進安定性も高く、回していると軽めになる。私としては回す間も重いままが良いが、多くのユーザーから不満が出ないところを上手く狙っていると思う。ギア比も先代ほどクイックではなくなり、おまけにフロントにはスタビライザーもあるようで、素早くステアリングを回しても終始落ち着いていることから、ここでも上質感が増している。

CVTに慣れてしまった体には久しぶりのAT、それも6速ではないか。街中のみのため5、6速はわからないまま終わってしまったが、4速までで言えば、BMW E87のATより優秀である。特に、マニュアル変速の際の入力から変速までのタイムラグが殆ど気にならない程度にまで減少していることに感心した。シフトショックは勿論なく、優しく加速すれば変速タイミングがわからないくらいに滑らかに変速してくれる。

また、アクセルとブレーキ、それぞれのペダルが思い通りに操作できることにも感動した。私が甚く気に入っているインプレッサスポーツの繊細なブレーキの扱いやすさには一歩及ばないものの、それを除けば全く不満のないペダル操作ができる。

スポーツモードなるボタンがあったので押してみたが、エンジン回転数が高めになるだけで他に変化は感じられなかった。本当にこういうスポーツモードの必要性はわからない。


ここまで褒めてばかりだが、気になった点が3つある。まず、歩行者保護のためにボンネット後端(=フロントガラスの下端)の位置が高くなる傾向にあるが、さすがに違和感を感じるほどに高くなっている。左右の窓の前端は下へ下がっているのに、ダッシュボード前方が壁みたいにそびえ立っているかのように感じられ、圧迫感が強く、座高が低ければそれが顕著になるだろう。座高を思いっきり上げれば今度はボンネットが見えてくるので、身長の高い人は気にならずに済むかもしれない。

次に気になったのは、アイドリングストップのためにエンジンが停止する際に、意外にも大きな振動が生じることである。これは最後まで気になって仕方がなかった。始動時は然程揺れないのに、停止する瞬間の揺れは無視できないレベルにある。

そして、前に静粛性の高さに触れたが、そのおかげでリアワイパーの動作音の大きさが際立ってしまっているのが非常に残念だ。はっきり「ウィィィィィン」と音が車内に響き渡るのはあまりにも情けない。多くのドライバーは後方視界に無頓着なのでリアワイパーは殆ど使用されないのはわかっているが、使う人にとってはここだけで一気に安っぽさが生じてしまう。

ちなみにもう一つ、デミオに限ったことではないが、コーナーセンサーの警告音の煩わしさにはもううんざりしている。カーシェアの車のうち、マツダはご丁寧にもこのデミオとCX-5に標準装備としていて、他に車体によっては日産ノートなどにも後付けされていることがある。警告音が鳴らない限り壁とぶつかることに気がつかないドライバーがいる以上は、安全のために必要として装備することは否定しない。しかし、その警告音が耳を刺すような音であることと、不要でもオフにできない場合があることはどうにかならないものか。この日は環八の裏にあるすれ違いにかなり気を遣う狭い道を通り、意外と交通量があるので頻繁に路肩に寄せて徐行する羽目になったのだが、その度に「ピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピー」と実にうるさくて腹が立ってしまった。バスが通れるように壁際に寄せて停車している間、ずっと私が何か悪いことをして警告されているかのようで、非常に不快であった。オフにする方法がわからなかった(そもそもオフにできるのかわからない)のでそのまま走っていたが、コーナーセンサーなど常時オフにしてやりたい。


1時間ほどのドライブでも期待を上回る好印象を残してくれたデミオは、これはもうVWポロと互角に戦えるラインまで上り詰めたと言っていいだろう。気に入らなかった点を終盤で挙げたものの、デミオの長所に対しては粗探し程度のもので、それは基本的な性能の高さがあるからこそである。とにかく、「どうすれば質の高いドライビングを求めるユーザーが満足してもらえるか」を開発者が徹底的に考えたことがよくわかる、良い車だった。出来の良さについて感心する度に、「ほら、その通りでしょう」と開発者の自慢げな顔が浮かんでくるようで、このような車は珍しい。おまけにそれをデミオというコンパクトカーで実現したことは本当に素晴らしいと思う。価格だけ見れば他社のコンパクトカーよりも割高に感じられるが、この乗り味に納得すれば、逆に「マツダはこれで儲かるのか」と次第に心配になってくることは間違いない。

そういえばスイフトとの比較をしようと考えていたことを思い出した。結論から書くと、デミオは素晴らしい出来だったが、スイフトは依然としてデミオに負けていないどころか、私はそれでもなおスイフトを選びたい。

まず、両者共に「上質な走りのコンパクト」だが、スイフトは「コンパクトカーの走りを真面目に追求した」のに対し、デミオは「上級クラスの性能をコンパクトクラスにも適用した」という印象で、厳密には求めている方向が少し違うのではないかと感じている。デミオでドライブしながらスイフトのことが脳裏をよぎることがなかったのもその現れではないか。

デミオを降りた後にスイフトを思い出すと、スイフトはハンドリングの洗練度が高く、気持ち良さではスイフトが上回ると考えた。スイフトの方がデミオよりハンドリングがクイックなのもあるかもしれないが、デミオはスイフトほどハンドリングを楽しめなかった。どちらかというとスイフトはワインディング向き、デミオはロングツーリング向きで、一般的には「好みの差」と言えるのだろう。また、この辺りも好みの差だが、エンジンサウンドはスイフトの方が上質に感じられて、内装デザインもすっきりとシンプルなスイフトの方が落ち着いてドライブに集中できる。

新型デミオの登場によってスイフトが地位を無くしてしまうのではと少々恐れたが、まだまだスイフトにも長所が残っていて安心した。

スイフトとデミオ、欧州車と肩を並べる素質のあるこの2台にはこれからも大いに期待している。今年中にはスイフトも新型が出るようだから、また楽しみが一つ増えたところだ。いずれ、もし近所にも新型デミオが配置されることになったら、また乗ってみようと思う。