とんでもない時代が来たものだ。学生が気軽にメルセデス・ベンツでドライブできる日が来るなど、考えてもみなかった。
2年前、まだ初心者マークの時期にMINIやBMWを運転できてしまったので、今更驚くことでもないのかもしれないが、今回はやはり一大事だ。メルセデスは格が違う。簡単に言えば、社長が乗るような車だ。本当に今の私が乗ってもいいのだろうか。昔からメルセデスに乗る世の人々は、学生がその辺のカラオケに行くくらいの金を出すだけでメルセデスに乗れてしまう現状をどう考えるのだろうか。色々な思いが出てくるが、この際、ありがたく乗せていただこうではないか!
駐車場に着くと、カルサイト・ホワイトのメルセデス・ベンツ A180はそこにいた。本当に「わ」ナンバーだ。今からこの車に乗ると思うと、また複雑な気持ちが湧いてくる。期待半分、罪悪感のようなものが半分とでも言おうか。
ドアを開けて、もうそれだけで感激している自分がいる。ドアの開閉が今までのどの車より重く、その上、開けると足下にはMercedes-Benzの文字が白く浮かび上がっている。思い出して書いているだけでも、その高級感と演出の上手さに身震いがしそうである。
車内に入りドアを閉めると、外の音がほぼ聞こえなくなり、完全に外界と遮断された空間が生まれる。新車の匂いが強く残っているのでオドメーターを見ると、まだ1500km程度しか走っていないではないか。本当にどうにかなってしまいそうだ。
どこから書けば良いか迷ってしまう。インパネ周りは若返りを目指すメルセデスらしく、BMWよりもスポーティなデザインで、高級感やセンスはかなりのものである。シンプルなデザインの時代のメルセデスが私にとってのメルセデスのイメージだったため、最近のメルセデスは少々派手な印象であまり好きではなかったのだが、あまりによくできているのでその印象は完全に覆された。各部スイッチを押した感触なども計算し尽くされているように感じる。粗を探す方が難しいだろう。
初めての電動パワーシートも、かなり細かな調整ができることに今更ながら感動してしまった。適切なドライビング・ポジションをとるのにこれは必須だろう。ただし最も驚いたのは、走り始めようとシートベルトを締めた時である。突然ベルトが自動で引っ張られて、きつくなったところで緩んだ。これは、シートベルトが正しく機能するための機構だったと記憶している。そういえば、メルセデスは新技術の宝庫であることを思い出した。走り始める前からこれだけ色々と感想が出てくるのはさすがメルセデス、としか言いようが無い。
この時点で、既にBMWのことが心配になり始めた。
シフトレバーは、日本車でいうウインカーレバーの位置にある。確かにパドルシフトもあるし、「今時フロアから生えたシフトレバーは古いよね」と言えばPRNDの選択はスイッチで構わないかもしれないが、これはかなり慣れを要するから賛否がありそうだ。
発進して加速していくと、二つ目の驚きが待っていた。加速すればするほど、路面がフラットに感じ、安定感が明確に増していくのである。初めてMINIで60km/hを出した時はビシッとしたその安定感に感動したが、このメルセデスの場合は、60km/h出したつもりでも30km/hくらいに速度を落としたかのような、不思議な感覚に陥る。路面の細かな粗い部分を全て削ぎ落としながら、ツルツルになった路面の上を滑っているかのような快適さである。まるでマジックを体験させられているかのような乗り味だ。勿論車体は揺れているのだが、安定感が凄まじい。おまけに車外の音がロードノイズを含めて相変わらず殆ど聞こえないのだから、こんなにも快適な車があるのかと感じた。ここまで来ると、遠くで聞こえるエンジン音すら耳障りに感じられてしまう。車好きの私に「エンジン音が無ければいいのに」などと思わせてしまうメルセデスの恐ろしさ。
前後左右のウインドウは狭く、慣れるまでは圧迫感を少し感じるが、先ほどのドアの重さなどの記憶もあって、安全性もかなり高いレベルにあるのだろう。
この時点で、300万円でこの車が買えるなら、どうして他の車を選ぶのかと思うまでになっていた。
1時間程度しか乗っていないので、詳細なことではまだ気がついていない部分もあるはずだ。また、速度を前の車に合わせて自動的に調整するディストロニック・プラスは、さすがに恐くて試せなかった。交差点を曲がる程度では、ハンドリングはかなり良いのではないかと感じたが、これは次回の長距離ドライブの際に改めて堪能したい。
デザイン良し、乗り心地良し...メルセデスの魅力に気がついてしまった私は、早速次のドライブにこのA180を選ぶことにした。それでも私自身は依然としてBMW派であることに変わりはないが、ここまで出来が良いと、BMWのことが心配になってしまう。残念ながら、先日お別れしたE87の1シリーズは、このAクラスが相手では勝負にすらならないと感じてしまったことを書かずにはいられない。
最新の技術を持ったメルセデスが、最もリーズナブルなAクラスであってもこれだけ高い水準に達していることを考えると、他メーカーは一体開発費を何に費やしているのかと尋ねてみたいところである。
車内照明に照らされるインパネの格好良さと言ったら...